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S&Cコーチを目指す方へ、キャリアづくりのアドバイス

臼井 智洋

公益財団法人日本バスケットボール協会/スポーツパフォーマンスコーチ

NSCA-CPT

これからストレングス&コンディショニング(S&C)コーチを目指すという方へ。資格は取ったけど、どうやってキャリアを築いたらいいかわからない、という方へ。先人たちから、キャリアづくりのアドバイスをお届けします。

第1回は臼井智洋(うすいともひろ)さんです。

【Profile】

早稲田大学でスポーツ科学を学び、在学中は学生トレーナーとして、卒業後はS&Cコーチとしてサンウルブズや早稲田大学ラグビー部など数々のチームをサポート。現在は、5人制女子バスケットボール日本代表スポーツパフォーマンスコーチなど、幅広く活躍中です。CSCS。

学生トレーナーから代表チームまで

僕自身のキャリアは、早稲田大学のスポーツ科学部に在学しているときから、ラグビー部の学生トレーナーとしてスタートしました。2014年の卒業時に当時の監督から誘っていただいて、そのまま早稲田大学ラグビー部に残ることになり、アカデミーの活動をやりつつ、江戸川大学で男子バスケットボール部のトレーナーを兼任。トータル10シーズン、早稲田大学のラグビー部で仕事をやらせてもらいました。キャリアの半分くらいはそこで過ごしました。

転機になったのは2020年。サンウルブズという日本ラグビーの強化を目的としたスーパーラグビーのチームに参加したこと。ここでの経験が新しいキャリアの扉を開いてくれました。チームは2020年シーズン限りでの撤退は決まっていたのですが、残念ながら新型コロナウイルスの発生でそれより早く、シーズン途中での中断となってしまいました。

その後、ラグビーのアカデミーを担当したことがきっかけで、高校のラグビー部に行ったり、東洋大学のアイスホッケー部を担当したり、個人競技であるトランポリンの日本代表候補選手のサポートもしました。現在は女子の5人制バスケットボールの日本代表チームに就いています。

学ぶほどに、学ぶべきことが増えていく

最近はアスリートをサポートするスタッフがすごく増えてきています。日本オリンピック委員会(JOC)などを中心に、「アスリート・アントラージュ」という言葉も使われるようになりました。S&Cコーチもその中の一員です。いろいろな専門技術を持つ人とチームを組みながら、一方で、いろんな仕事を兼務しなければならない場合もあります。とにかく、いろいろな人たちとさまざまな範囲で業務をしていく。個人的にはそこが楽しいところだと思っています。

また、ひと口にストレングス&コンディショニング(S&C)といっても、非常にたくさんの要素があります。僕らはそれだけ広い範囲の仕事をしていかなくちゃならない。いつも感じるのは、「学べば学ぶほど、学ぶべき領域が増えていく」ということです。こういうことを言うと絶望感を感じる人もいるかもしれないけれど、ぜひ学び続けることを楽しんでほしいですね。

この落書きのような絵は、よく学生向けのセッションで見せるものなのですが、スポーツの現場ってまさにこんな感じなんです。選手や僕らの頭の中はいろんな情報が溢れたカオス状態。何が正しくて、何を目指せばいいのかわからなくなる。チームスポーツのみならず、個人の選手をみていても、こういう状況に陥ることがよくあります。

僕らS&Cコーチの役割は、このカオスを読み解くこと。データやリサーチ、あるいは他の選手とのコミュニケーションの中で得られた情報を入れながら、「いまはこの赤い線を見ているよね、その情報は緑の線だよね」というのを、周囲の人たちと話をしながら、整理していく。選手と一緒にカオスの中に方程式をみつけ出していく。それが楽しいわけです。

※アントラージュ:フランス語で「取り巻き」という意味

これからS&Cコーチを目指す人たちへ

それでは、S&Cコーチとしてのキャリアを築く上で大切なことを、僕なりにお話ししていきたいと思います。

1)学べる環境があること

先生、師匠、メンターと言える人がそばにいるか。このことが僕はとても重要だと思っています。振り返ると、その時その時でそういう方がいました。S&Cコーチとは限りません。トレーナーさんがいたり、学校の先生がいたり、コーチデベロッパーという立場の方や、ラグビーコーチもいました。僕が一方的に師匠だと思い込んでいた人も多々います。それはそれで構いません。この人についていこうと思える人がいる。そのことが重要なのです。

2)依頼は可能な限り引き受ける

「依頼を受けたものは可能な限り引き受けなさい」。これは大学卒業から少し経った頃に恩師からもらった言葉です。自信がなくても、あるいは気が進まないことがあったとしても、「まずはとにかく行って、自分がそこで何ができるのか、相手が何を求めているのか、そこにチャレンジしてみなさい」。僕はその言葉を信じて、ここまで扉を開いてきました。先日、師匠にそんな話をしたら、「オレそんなこと言ったっけ?」ととぼけていましたけど。

3)外に飛び出してみる

早稲田大学のラグビー部に10年いたあとに、サンウルブズに飛び込んだ。そこが自分にとっての転機になりました。一つの環境で突き詰めてやることも素晴らしいことなのですが、そこから飛び出してみたときに、たくさんの出会いと発見がありました。自分の信念を持つことは大切ですが、決して盲目的な信者にはならないこと。常に新しいことを受け入れる柔軟性を持って、チャンスがあれば外に飛び出すことであなたの可能性は広がります。

4)まずはアポを取って行ってみる

自分が何を学びたいのか、誰のもとで学びたいのか。心に思い浮かぶ人や環境があるのだったら、まずアポを取って行ってみてしまえばいい。サンウルブズの仕事をいただいたきっかけは、早稲田のラグビー部を勝たせたい一心で、オフの日に毎日サンウルブズの合宿所に通ったことでした。「練習を見学させてください」とお願いして、何度も通い続け、そんな中で顔と名前を覚えてもらったのでした。「学びたい」という思いを持って通い続けると、向こうから声をかけてくれる。S&Cコーチというのは、そういう業界だと思います。

さいごに

ありがたいことに僕自身はたくさんの先人たちとの出会いの中で、学ぶ環境をいただいてきた人間です。僕自身まだまだキャリアを積み重ねていきつつ、今後はこれからS&Cコーチを目指す人たちのためのコミュニティを創り上げていきたい。もちろん、NSCAジャパンもそんなコミュニティのひとつです。より現場に寄り添った機会を自分なりにつくっていければと願っています。


2023年12月17日「NSCAジャパン S&Cカンファレンス2023」ライブキャリアインタビューより